~ ♪ アートの時間 ♪ ~

 アートの時間は、1ヶ月に2回ほど設けています。本当は1週間に1回くらいできたらいいのですが、なかなかそうはいきません…。絵のテーマは、夏祭りなどの行事が近いと盆踊りや提灯を連想してもらって描いてもらっていますが、普段は「何でも好きなものを描いてください。」と言っています。

 施設で暮らしている利用者は、起床・食事・入浴・作業・休憩時間も施設側によって決められたリズムで生活をしています。決められた時間とルールがあって、その気がない時もその気にさせられたり、ちょっと頑張って急いだり、ふざけると注意を受けたりしています。その生活の中で、画用紙の上では好きなものを自由に発想して描いてもらいたいと思っています。何を描いていいのかまとまらず、長時間悩んでいる人にはヒントを出します。悩み抜いて目の前にある絵の具やクレヨンの箱の形をなぞった方がおられました。けれど次には、その形をいくつも重ね合わせて色を塗り分けることを思いついていました。色も形も人それぞれで、白い画用紙が変わっていく様を見る瞬間は本当にときめいてしまいます。アートの担当になって本当によかったと充実感を感じる瞬間です。

 アートの時間で気をつけていることは、怒らないということです。白い画面の上なら何をしても自由ですから。また、不必要なアドバイスもしないように意識しています。クレヨンやマジックで下絵を描いた後に、自分で絵の具をチューブからパレットに出したり、混ぜたりできない人には職員が付いて支援しています。その際も絵の具の色は自分で選んでもらっています。緑と茶色・赤・薄橙色・黄色など面白い色の組み合わせを選ばれています。

 私がアートの担当になり8年ほど経ちますが、絵を描くことに利用者の方が慣れて抵抗がなくなってきたようです。Uさんは、“トンネル”という形に拘り、ずっと描き続けていますが、3年ほど前にピストルに興味を持ち始めました。他害行為のある方なので玩具のピストルも武器になる危惧がありました。ある職員が紙のピストルを作ったところ、その制作に興味を持たれ、食事に出たゼリーのカップや薬の空き袋、雑誌などをセロハンテープで張り合わせて何百丁もの作品を完成させました。現在、その作品はUさんのベッド下の段ボールに収められています。二次元の画用紙の絵から、立体の三次元へとUさんはやすやすと飛び越えていったのです。アート力の進化です。

 絵を描くことに夢中になる方がいる一方、全く興味を示されない方もいます。しかし、音楽というアートには、もっとたくさんの方が親しまれています。自分の思いのままにリズムを刻む・声を出す・色使いを楽しむことがアートだと思っています。足りないのは職員の力量だけですが、楽しい時間を過ごせるアートの時間を今後も大切にしていきたいと考えています。

アート担当:増田 千津子

 


《かしのみ寮 利用者の作品》